仕事と健康

健康に働くためのヒント

江戸時代後期の日本の鉱山労働と煙毒

鉱山労働が過酷なものであったことは容易に想像できると思います。江戸後期には手作業による採掘と、通気の良いところでは火入採鉱法が行われるようになりました。火入採鉱法とは、鉱山内に爆薬を使用して鉱石を採掘する方法です。以下に、この方法の基本的なステップを説明します。

ステップ 1: 地質調査 最初に、鉱山の地質学的な調査が行われます。これにより、鉱石の位置や特性を特定し、採掘の可能性を評価します。

ステップ 2: 穴の穿孔 鉱山作業員は、鉱石が埋蔵されている場所に穴を穿孔します。これにはドリルなどの機械が使われ、鉱石の層に爆薬を配置するための穴を作ります。

ステップ 3: 爆薬の配置 穿孔した穴に爆薬を配置します。爆薬の量や配置は鉱石の種類や鉱山の条件によって異なります。

ステップ 4: 爆破 爆薬を起爆して、鉱石を破壊します。爆発により、鉱石が破片として崩れ落ち、採掘が可能になります。

ステップ 5: 鉱石の回収 爆破後、崩れた鉱石を回収し、精錬や加工のために運び出します。

火入採鉱法は、効率的な鉱石採掘手法である一方で、作業員の健康に多くのリスクを伴いました。これには以下のような健康障害が関連していました:

  • 呼吸器疾患: 火入採鉱法における爆発は鉱山内に有害な塵やガスを放出し、鉱山作業員が呼吸器疾患を発症するリスクが高まりました。
  • 音響暴露: 爆発音は非常に大きく、長時間にわたります。これにより、作業員は聴覚損失や耳鳴りなどの問題を抱えることがありました。

  • 身体的なケガ: 火入採鉱法の爆破作業は危険で、爆発による飛散物や崩れた岩石による作業員の負傷が頻繁に発生しました。

  • 粉じん曝露: 爆発や採掘作業により、粉じんが大量に発生し、粉じん吸入による肺疾患や健康への影響が懸念されました。

火入れ採鉱法が行われれば狭い坑内には煙と粉塵が渦巻くことにより、行われなくても「つち」や「のみ」、「たがね」で発生する粉塵と坑内で使用する燈火の油煙は坑内に漂い、坑内の空気には粉塵がいつも濃厚に浮かんでいました。このような状況でしたから鉱山の呼吸器の病気の一番の原因は煙と考えられ、「煙毒」「煙食」などと言われました。1803年に大葛金山を訪れていた江戸時代の旅行家、菅江真澄は煙毒の悲惨な有様を書き残している。つまり、大葛金山では塵肺で男が若死にするので普通は42歳で歳厄の祝をするのを、大葛では32歳になると42歳になったのと同じような感じで祝っている。また男は若死にするので女は一生に7,8人の夫を持つ。と、書いています。このような現象は中世のヨーロッパでの鉱山でも全く同じ記述が見られ、洋の東西を問わず、鉱山労働が過酷であったことが伺われます。