仕事と健康

健康に働くためのヒント

大葛金山金堀病体書

1811年大葛金山の山主であった荒谷忠兵衛は今日知られている珪肺の症状を的確に記していると言っていいほどに詳しい記述を「金山金堀病体書」に記している。あまりにも的確なので、当初は医師が書いたものと思われていたくらいだという。当時の山主が鉱夫たちの病気について真剣に悩んでいたことが伺われる。その内容を見てみると、①14,5歳から坑内に入り、労働の際に激しく呼吸することで「煙の如き石紛」を吸引することが問題である。②金堀同様に坑内にいるものがいるが、石紛を吸わないものは歳をとっても病がない。③したがって石紛に毒があり、参考まで鉱石のひと塊を差し上げる。④金堀は常に浅黒く皮膚に艶がない、病は26,7歳から始まりまず、石紛混じりの痰を出し始め、だんだん衰弱し咳が激しくなり、胸が痛み喘息様になる。食欲も低下しだんだん痩せて、そうなって初めて医者は薬を用いるが効果はない。臨終においても妄言などの精神障害はない。⑤病になってそのまま治らないものもあるが、そのまま2,3年働くものもいる。病になると坑内労働をやめたものでも2,3年立っても石粉混じりの黒い痰を吐くものもいる。⑥これまで医師は対症療法を行ってきたが、根本療法を行う医師がいない。

 鉱山の病気が煙毒と言われ、煙が原因と考えられた時代に、労働の際の激しい呼吸につれて吸引する「石紛」が問題だとしており、現在の「珪肺」の概念をほぼ的確に言い表していると言ってもいいと思われる。

1826年には金堀の辰五郎という者に藩医が付き添って江戸医学館まで出向いて診断を受けさせたり、病を防ぐために水で濡らした「覆面」という保護具をつけ、また竹つつを坑内に持参させて口をゆすがせたり、呼吸が荒くならないように、ゆっくり穏やかに掘らせたりしたのだという。この方法は明治にまで受け継がれたようである。これによりかなりの粉塵を防ぐことが可能であったと考えられる。